ISO9001:2000認証取得により職員全員の      
モチベーションを高め、最終的に医療の質を向上させる。

特別医療法人・福島厚生会 福島第一病院 理事長 星野 俊一
同・福島第一病院 事務長 伊藤 八重子

 

医療法人・福島厚生会がISO9001:2000の認証を (株)日本環境認証機構(JACO) から今年2月に取得した。除外項目なしで取得を果たしたわけだが、そこに は医療サービスという特殊性ゆえの構築の難 しさがあった。その象徴がISOの要求事項を実際の業務へどう読み替えるかである。それらの点などを中心とした医療という"サービス"について同法人・理事長・星野氏、事務長・伊藤氏に取材した。

 

医療の質=顧客満足の向上

本誌:医療法人・福島厚生会の認証取得組織には福島第一病院、厚生会クリニック、訪問介護ステ- ションささや、指定居宅介護支援事業ささやが含まれていますが、 ISO9001:2000を取得した動機をお聞かせください。

星野:医科大学を定年となり、父が経営していたこの法人に理事長として2年前に来たわけですが、大学での教育、研究、診療の三つの目標と、 市中病院での目標に違和感を感じたのは確かです。そうはいっても、厳しさを増す病院経営の将来の方向性 を考えた場合、医療の質を向上させ ることが最重要課題であると思いま した。医療の質を高めることは、取 り も直さずISOで言う顧客満足度を高めることですから、患者さんの満足感、そこには昨今問題となってい る医療事故の防止という要素まで含まれますが、それらを含んだ一つの管理システム、マネジメントシステムが必要であるとの考えに至ったわ けです。
  医療に関連するシステムの客観的評価としては、病院に対する第三者評価を実施している(財)日本医療機能評価機構の「病院機能評価」と 「ISO」のニつがあります。究極的には両方が必要と思いますが、第一段階としてどちらかを選択しなければなりません。マネジメントシステム
によって顧客、つまり患者さんの満足度が上がっていく、そのプロセス が一番重要であると考え、まず ISO9001:2000を取得することにしま した。

本誌:「病院機能評価」の内容をお教えください。

星野:医療サービスの質、レベルの評価を行うもので、評価項目としては診療の質の確保、看護の適切な提供、患者の満足と安心、病院運営管理の合理性など7項目があり、それらをサーベイヤーが審査し、基本的に5段階評価の3点以上で認定証が発行されます。狙うところはISOと同じで、医療の質を高めるためのものです。
  ただISOは病院機能評価のように医療や看護、病院運営などのレベル自体をチェックするのではなく、マネジメントシステムを構築し、PDCAサイクルを回すプロセスを重要視するという相違点があります。しかもISOは継続的改善によってマネジメントシステムの向上を図っています。したがって、更新審査もISOは3年に1回、病院機能評価は 5年に1回と異なっています。
  決定する時点ではレベルチェック を受けるよりはISOの持っている長所に着目しました。各部門の権限、責任が明確になり、ひいては医療サービスの質の向上、職員のモチベーシ ョンのアップ、事故防止対策などにより最終的に顧客満足度の向上につながるのではとの考えでした。現在はISOの認証取得を果たしましたか ら、次のステップとして病院機能評価にチャレンジしているところです。

 

患者様、お客様、ご家族と呼び方を区分

本誌:ISOの用語を実際の業務に当てはめるのは大変だったと思いますが、その点はどうでしたでしょうか。とくに顧客という言葉はどう解釈されましたか。

伊藤:病院がサービス業だとすれば、当然顧客という概念は患者さんに対して出てきますから、特に悩みはありませんでしたが、どの範囲までを顧客と考えるかの問題はありました。つまり顧客を「患者さん」という言葉でひとくくりにはできないからです。病気を持った方、積極的に病気の治療を受けている方もいます。さらには介護保険を適用されている方、検診を受診される方や人間 ドックをご利用になる方、あるいはまた、ご家族の方までいらっしゃいます。それぞれ提供するサービス内容も違ってきますから、患者様、お客様と呼び方を変えれば区分できるのではないと考え、そのように定義しました。

星野:大学病院からこちらに来ましたが、顧客と言われた時には本当に口惑ったというのが実感です。大学病院では少なくとも顧客という概念はありませんでしたから。

伊藤:大学ですと病院がサービス業 というよりは、教育機関という意識が強いでしょうから、その教育機関の中にたまたま患者さんがいるとい う感覚の違いではないでしょうか。 それにしてもISOは他にも難しい表現がたくさんありました。

本誌:例えば何でしょうか。

伊藤:ISO9001規格の言葉というよ り、その中に書かれている意味が難解で悩みました。つまり医療に当てはめて考えた時、どのように要求事項を解釈すればいいのかということです。部分的な単語ではなく全体で何を意味しているのかを理解するのが難しかったのです。
 
最終的には図1の「医療サービスマネジメントシステム体系図」を作成していますが、これは最後まで悩んだところです。

星野:例えば、「医療の品質」といいますが、品質というニュアンスはわかるのですが、医療の現場では品質という言葉は使っていませんでし た。当然「医療の質」という言い方はありましたが、それを品質という言葉で議論したり、考えたことはあ りませんでした。

伊藤:私たちは品質の"品"を取れば医療の"質"だとすぐ読み替えら れますが、先生方は厳密で、品質は品物ですから、製造業でもないのに品質というのはおかしいという考えをされた方が多かったと思います。 顧客と品質はー番こだわられたのではないでしょうか。

 

医療における設計・開発

本誌:製造工場的な話や単語が多いということですが、設計・開発 はどうでしたか。

伊藤:まず設計・開発とありますが 設計と開発は別ではないかと思いま した。今でも悩んでいますが、設計という部分で考えればいいと割り切 りましたが、次の段階では設計をど うとらえるかという問題が生じまし た。勉強会をしながら、患者さんが来られて、医師が治療計画を立てて治療を実施する、そのー連の流れが 設計だというとらえ方をしました。

星野:非常に迷いました。設計といいますと何か新しい治療法の開発と か、実験的なものを指すのではない かと難しく考えてしまいます。結局患者さんが来られますと治療計画を立てます。医師の場合はその治療計画を立て治療をすること、看護の場合は看護計画を立て看護をしますが、それぞれを設計ということに理解しました。

伊藤:医師の部門における設計、看護部門の設計、検査部門での設計な どそれぞれがあることにしました。 患者さんがいらした時に状態を目で 確認し、その後どういう手段で治療を確実に実行するかを判断する手順 がありますが、それをーつの設計、 その部門の設計ととらえたわけです。
  新たに設計のための手順を設ける のではなく、すでにある規則や手順 を適用して使うことにしましたの で、他の業界の設計という考え方とは違うかもしれません。

本誌:手術は特殊工程という意見 もありますが、それはどう考えら れましたか。

伊藤:特殊工程はないということで、手術室も含めすべて手順書を作 っています。

星野:最初は例外を認める方向で、 手術室を外すという考えがあったのですが、構成員のモチベーションを 高めることが肝要ですから、例外はなしということにしました。
  しかし整形外科があり、心臓外科 があり、一般外科があるというよう に、千差万別で個々に手順書を作っ ていくのは不可能です。要はいかに 間違いなく、きちんと治療を実施できるかということですから、患者さんの取り違えや左右を間違えること などが起こらないような、総論的な 手順書をそれぞれ作成しています。 この点は非常に苦労しました。

 

図2 外来医療の業務プロセス

 

カルテに対する考え方

 

本誌:カルテはどのように考えら れたのでしょうか。

伊藤:患者様、お客様の医療サービ スに関する要求事項と、私どもが提供した医療サービスとその結果に関する全記録を各人ごとにファイルしたものということにしています。外来医療の業務プロセス・処理内容を図2に示しましたが、太線で大きく 囲った部分がそれに該当します。 入院・外来・歯科医療の場合ですと、医師記録・看護記録、指示録、各検査データ、各指導記録など、サ ービス提供にかかわる全記録になり ます。居宅介護支援の場合ですと、 サービス計画、サービス利用者状況、 そしてサービス提供にかかわる全記録です。例えば、医療サービスに関連する要求事項の明確化という点か らも、患者さんの要望などをカルテ に書き込むことによって明確化を図 っています。

本誌:文書体系はどのような構成 になっていますか。

伊藤:文書本来の頂点にあたるのが医療サービスマネジメントシステムマニュアル(本マニュアル)、次が第2段階手順で、当法人の全部署に共通する手順書となります。文書管理、記録管理、購買管理手順書など ISOが要求する品質マネジメントシステム文書で、当法人独自のものもプラスされています。例えば、医療事故防止対策手順書などがこれに該当します。
  第3階層手順書は各部署独自の手順書で診療部門、看護部門、検査部門、管理部門など個々の手順書が該当します。全部まとめるとこの手順書だけで段ボール一箱分はあります。

本誌:病院における購買とは何が該当するのでしょうか。

伊藤:基本的には他の業界と変わりません。物品購入として薬剤、診療材料、歯科材料、医療機器、食材な どの購入が該当します。また業務委託として医療事務、医療機器の校正・点検、検査業務、入れ歯などの加工業務、施設の維持管理および廃棄物処理の業務、食事サービスなどの業務などが該当します。
  これら購買品は購買管理手順書を定めて管理しますが、これら購買品の品質は医療サービスの質に及ぼす影響が大ですから、手順書の中に学者の方の選定や評価方法について定めています。

本誌:2000年版で強まった経営者の責任ですが、マネジメントレビ ューはどのようにされていますか。

星野:マネジメントレビューは年2回の実施にしています。内部監査員 からの報告を受け、私が対応を考え ます。その他にISO取得以前から中期経営計画というものがあり、各部門が1カ月に1回、当面のテーマである中期目標、実績をチェックし、 必要であれば再計画を立てることにしています。事務部門は事務長、看護部門は総婦長と私、診療部門は私が担当しています。
 ISOのよいところはPDCAを常に回し、継続的改善につなげていると ころです。しかし取得直後はいいのですが、時間が経つにつれ当初の効果的な利用という目的から外れてし まいがちです。
 したがって当面は両方を継続して実施していきたいと考えています。 ISOを取得するのが目的ではなく、 その後いかに計画どおりに実行する かが重要になります。

本誌:PDCAを回すことによって、 最終的には医療の質も高められる ということですね。

 

病院勤務者=国家資格保有者

星野:難しいのは、製造工場とは大きく異なり、病院に勤務している人 たちはほとんど国家資格を持ってい る点です。お互い自分の部門はよく 理解しわかっていますが、横とのコ ミュニケーションを取る必要が生じた場合、連携という面では難しい面 があります。個々人は優秀であって も、もっと横のコミュニケーションを図る必要がありますし、このようなギャップの存在が医療事故にも結 びつく可能性もあります。
  内部監査にしましても、自分のところの業務は理解できているのです が、薬局の人が検査部に内部監査に入る、あるいはレントゲン部に行っ た時、どこまで他部門を理解し監査 ができるか不安な点もあります。そのようなギャップをなくすことが私の役割だと思っています。ISOによ って権限を与え責任を遂行する、それが機能すればよいと思います。

伊藤:責任と権限が与えられたことで内部監査員や推進委員の人たちは 動きやすくなったと思います。他部門の仕事が多少わからなくとも、患者さんの立場で物事を見る、あるいは監査とは何かという視点さえあれば、部署が違っても問題は起こりま せん。それぞれ役割は認識していま すから、支障なく実施できているのではないでしょうか。

本誌:ISOで職員の皆さんのコミ ュニケーションやモチベーションを上げることも狙いでしたか。

星野:昨今の医療事故を見ますと、 本当に初歩的なミスに起因していま す。それを防止するためには業務をマニュアル化し、徹底させ、ニアミ スが起こった場合はPDCAを回すこ とによって減少が図れると考えてい ます。 このことによって少しでもミスが 減らせれば重大事故にはつながら ず、ひいては病院自体の信頼性を高め、患者さんによりよいサービスが提供でき、顧客満足度が向上すると 思っています。

伊藤:ISOを取得できたのは、先ほ ど述べました毎月実施していた中期 経営計画がべースにあったからで す。開始して2年ほどですが、その時のいろいろな経験がISOの取得活動に生きたということではないでし ょうか。ともかく、やらなくてはという雰囲気がありました。 さらに、取得活動によって横の連携を否応なく取らざるを得なかった 点もあります。それまではどちらかというと縦割り、自分の部署中心という視点でしたが、横との連携を取らざるを得ない状況になりましたか ら。そこが非常に大きなポイントだ つたという気がします。

本誌:医療分野におけるISO9001取得の貴重なお話をお聞かせいた だきありがとうございました。