ME&YOU 4月号より

タバコの害−禁煙のすすめ

社会医療法人福島厚生会
福島第一病院
消化器科 部長
柳沼 信久


喫煙の健康被害は 多数の人命を奪っている(能動喫煙で年間11万人、受動喫煙で年間2,5万人 )ことや受動喫煙で周囲に知らないうちに害を及ぼしている事、さらに国全体の 経済的損失が莫大 な額に上ることなどの事実があるにもかかわらず、こうした重大な情報が正確に社会的に認知されているわけではありません。タバコのもたらす害悪の実像をしっかりと認識する必要があります。 喫煙はニコチンによって維持させられる麻薬中毒と同様の疾患である というのが現代の医学界の考え方になっています。

この病気(喫煙)を一刻も早く地球上から根絶しようという気運が高まっているのも当然でしょう。

 

タバコ煙に含まれる有害物質

 タバコの煙には非常に多数の有害物質が含まれています。 ニコチンは依存性の主因 になり、タールなどの 発癌性のある物質 は40種類以上が指摘されており、 ダイオキシン は 化学工場焼却炉の排気煙の百倍の濃度 といわれ、 一酸化炭素 フリーラディカル は血栓の原因をつくります。後者は肺の弾性繊維破壊から肺気腫をおこします。副流煙の毒性が二倍以上あることとあいって受動喫煙はすべての環境汚染因子の総計よりも有害です。 タバコをすうことは周囲に危害を加えることと同じ ことになります。

 

タバコの害の種々相

 喫煙による 発癌 については癌全体としては男性では1.6倍、女性では1.5倍に増え男性の癌全体の29%の8万人女性癌内の8千人、総計9万人はタバコによって発生しています。 肺癌 はとくに関連が強く、非喫煙者に比べ喫煙者の発生率は 男性で4.5倍 、 女性で4.2倍 になります。肺癌は悲惨で、死亡率は高く(全癌死33万人の19%に相当) 癌死のなかで最多 です。 乳癌 は閉経前では喫煙者は 3.9倍 、受動喫煙では 2.5倍 に上ります。その他喉頭癌、食道癌、膵臓癌、大腸癌、分化型胃癌、なども密接な関連を指摘されています。

心血管系への影響 では、 クモ膜下出血 との関連は明らかで、男性では3.6倍、女性で2.7倍、 脳梗塞 は男性で6倍、 虚血性心疾患 は 1.6 倍になります。これは喫煙が血管内皮を剥離させ、血小板機能を凝固しやすい方向に誘導することや、悪玉コレステロールの酸化、善玉コレステロールの減少など血栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)を引き起こしやすい方向にむけるせいです。

呼吸器系への影響 で最も重  大なのは 肺気腫 の原因の90%を占めることで年間死亡数は1.3万人となります。 気管支喘息 との関連も明白で、受動喫煙で小児喘息は2倍以上に増加するほか、気管支に炎症を起こすことから喘息悪化効果は明らかです。

2型糖尿病 とも関連が指摘されており、女性では一日20本以上の喫煙者では2.9倍、同本数喫煙の男性では1.4倍の発生率になっています。男性の60本以上の喫煙者は 自殺率 が2.1倍に上昇しています。

次世代への影響も深刻で、妊婦喫煙で 胎児体重が10%減少 し、口蓋裂、神経管欠損などの 奇形の増加 がみられ、 乳幼児突然死症候群 は3倍に増加します。白血病や悪性リンパ腫の増加も指摘されています。喫煙妊婦から生まれた小児では 問題行動 が多く、 注意欠陥多動性障害 を起こす率が高率で、男児では将来 暴力犯罪 を起こす率や常習犯罪者になる率が高いといわれております。

 

喫煙の害を観点を変えてみると

 タバコの害は以上のとうり明白ですが、別の観点からみ直してみると、 寿命 については喫煙者は非喫煙者に比べて 10年短縮 します。禁煙のメリットは30歳で禁煙すると10年寿命延長、40歳では9年、50歳では6年、60歳でも3年と見積もられております。

 喫煙は 心筋梗塞死リスク でみると、一日20本以上喫煙すると 総コレステロール280〜300 mg/dl を放置するのと同じ で(発生率4.25倍)、 脳梗塞死亡リスク でみると、 収縮期血圧を160〜180 mmHg で放置するのと同じ (発生率3.26倍)です。 喫煙男性死亡の42%、喫煙女性死亡の31%が喫煙が原因 といわれています。

 受動喫煙は副流煙の毒性の強さからから問題になっていますが、 家庭で受動喫煙 を受けると 7人に1人が死亡 する計算になります。受動喫煙は環境基準の1万倍以上の致死的空気汚染で、一生で見ると東京都心に住みディーゼル排ガスで肺癌で死亡する確率の33倍に相当します。「年間損失余命」という指標でみると能動喫煙では1000日以上、受動喫煙では132日に相当します。

 

喫煙の経済的損失

 喫煙による経済的損失は超過医療費として一兆三千億円、労働力損失は五兆八千億円、計七兆一千億円に上ります(ちなみに交通事故の損失総額は一兆七千億円で1 / 3.4とはるかに少ない)。タバコ税と関連産業の収入は三兆三千億円で、収支は 三兆八千億円の赤字 ( 1999年 ) となります。タバコ一箱の適正価格は660円となります(欧米では一箱800円ぐらいに設定されている国が多い)。 価格上昇で若年者の購買量が激減 するといわれ、 国の将来を考えて早く値上げするべき でしょう。

 

 禁煙のメリットと方法

  禁煙では以上のすべての害悪から離脱できます。肺癌については7年禁煙すると罹患率が4倍から1.4倍へ、10年禁煙すると非喫煙者と同等になるなどの効果が見られ、肺気腫では禁煙で死亡率が半減し、心筋梗塞再発率は1 / 3になります。 禁煙の方法はなんといってもタバコの害悪の実像を正確に認識すること が第一のステップです。ニコチン代替療法、心理リセットなどのため禁煙外来に足を運ぶことも効果的です。法律としても平成15年の健康増進法で受動喫煙防止の規定が定められ、同年 WHO でタバコ規制枠組み条約が採択されて世界の禁煙の速度は加速されています。今後も様々な政策が実行されて少なくとも公共の場では全く喫煙できない時代が来ようとしています。