ME&YOU 11月号より

もの忘れ・認知症について

特定・特別医療法人福島厚生会  
福島第一病院
名誉院長
浅野 桂太郎


若い人にも認知症はありますが、65才以上の人の6%、85才以上の人の4人に1人が認知症、こうしたデータを聞きますと、年をとれば脳の老化も進みもの忘れしやすくなることは判っていても、あまり頻繁にもの忘れがひどいと自分は認知症になるのではと心配になるかと思います。

認知症とは? 

認知症とは物事を認識したり、記憶したり、考えたり、判断したりする力が障害をうけ社会生活に支障を来すようになった状態を言います。認知症を起こす原因には後述するようにさまざまな原因、病気があります。認知症は次第に進行しますが、3つのステージに分けられます。初期は記憶力が徐々に低下し日付が判らなくなったり金銭管理が苦手になります。中期は自分の服用中の薬の管理ができなくなったり、季節に合わせた衣服を選べないとか、周りの状況判断が出来ず混乱し徘徊や幻覚が出ることもあります。後期は衣服の着脱が出来ず、運動機能も低下し生活の全面介助が必要となります。こうした認知症の初期症状で中核をなす症状はもの忘れです。ただこのもの忘れは皆同じではなく、良性のもの忘れと病的なもの忘れがあります。私達は年を重ねますと人の名前や物の名前を忘れることが多くなりますが、後日になって自然に思い出したり、周りの人に説明されるとああそうだったと思い出します。脳には大筋の記憶がちゃんと長期保存されておりますが、脳の疲労やストレスなどが原因で想起する機能が一時的に働かなくなった状態で本人が忘れた事を自覚しているのは良性のもの忘れです。病的なもの忘れは特にアルツハイマー病にみられる症状で、初期は新しいことが覚えられず物を見聞し説明をうけても少し経てば忘れてしまい記憶が保存されていない状態です。例えば前日の食事の内容を聞いても内容はおろか食事した事を覚えていない、つまり体験その物が記憶から抜け落ちます。その他病的なもの忘れには現在の日付や曜日がわからない、どこにいるのかわからない、記憶力が低下したことの自覚が薄い、料理のレパートリーや炊事回数が減る、やがては炊事をしなくなるなど日常行っていた事が出来なくなって来ます。又つくり話をすることがあり、末期には話が通じなくなります。

 

人の記憶のメカニズムは? 

記憶とは、日常私達の身の廻りに起こった視覚、聴覚など五感で感じとった情報を電気信号に変えて神経を伝って脳に送られ脳に記憶する働きと、記憶された情報を必要に応じて取り出すという両方の働きを言います。私達の感じとった情報はまず大脳皮質連合野に送られ、情報の内容が分析され海馬という脳の深部にある場所に保存され記憶されます。海馬の記憶は再び大脳皮質に送り返され大脳皮質に保存されます。海馬に残る記憶は新しい記憶で数週間から2〜3年で消えて行きますが大脳皮質に蓄積された記憶は長期、長いもので一生に亘り保存されます。記憶に携わる神経細胞は大量のネットワークで連なり合っており、老化により多少の神経細胞が消失しても記憶は保存されます。病的なもの忘れはこうした記憶に係る海馬や大脳皮質に病変が生じた時に起こります。アルツハイマー病では脳に異常な蛋白質(βアミロイド)が蓄積したり神経線維の変性がみられます。脳梗塞等の脳血管障害では障害を受けた部分の脳の壊死が起こります。そして記憶、認識、思考、判断、学習を行う大脳の機能が失われて行きます。日本の認知症の患者さんの数は現在170万人に上るといわれます。その半数以上を占めるのがアルツハイマー病です。次いで多いのは脳血管障害で15%、20%がアルツハイマー病と脳血管障害の混合型です。残りの10%はその他の認知症で、レビー小体病、ピック病などが知られております。

 

認知症を防ぐには? 

認知症を起す病気で最も多いアルツハイマー病はなぜか女性が男性の2〜 2.5 倍多いです。この病気を起こす危険因子は加齢です。そして遺伝も一つの要因と言われます。又このアルツハイマー型の認知症は生活習慣病である高コレステロール血症、高血圧症、糖尿病と深い関係があることがわかっています。認知症を予防するには加齢や遺伝はどうすることも出来ませんが、生活習慣病は予防と治療が出来ます。まず食生活はEPAやDHAを多く含む魚類を食べること、脳細胞の働きを阻害する活性酸素を取り除くために、ビタミンEやビタミンC、ポリフェノールを含む食品(緑茶、大豆、ウコン、イチョウの葉エキスなど)を積極的に摂る、汗ばむ程度の運動をする。又脳をトレーニングするため知的生活を送って脳を活性化させる。そのために囲碁や将棋を楽しむこと、美術や音楽を鑑賞するだけでなく歌ったり演奏したり、自分で絵を描いて楽しむことが大切です。又認知症を起こす要因として、孤独な環境になること、例えば定年退職し急に今までの仕事が失くなること。又骨折などで寝たきりになり体を動かせず、血液の循環も悪くなり脳の機能も低下することも認知症を起こす一つの要因です。

 

認知症の治療は? 

認知症の治療は、認知症の専門医のいる病院(精神科、神経科、老年科のある病院)、もの忘れ外来や認知症外来を設けている病院を訪ね、認知症を早期発見してもらい出来るだけ早く治療しましょう。アルツハイマー型認知症の進行をゆるめる薬として塩酸ドネペジル(商品名アリセプト)が使われております。この病気の初期から中期の症状に有効です。認知症を根本的に治療出来る薬が望まれますが、現在開発途上です。その他認知症の治療として脳を活性化させるリハビリテーションがありますが、何よりも家族の方々の理解と介護が大切です。