ME&YOU10月号より

メタボリックシンドロームを解消しよう

過m食と運動不足を改善することが一番のカギ

特定・特別医療法人福島厚生会 福島第一病院
消化器科部長 柳沼信久


メタボリックシンドロームは「死への行進」
メタボリックシンドロームという文字がテレビやマスコミにあふれているが、横文字標語の通弊としてその概念が正確に理解されているとはいえないようである。過食・運動不足の生活習慣が肥満をもたらし同時に高血糖、高脂血症、高血圧などを併発し、糖尿病やその合併症へと進展し、急速に進行する動脈硬化が心筋梗塞・脳梗塞をおこして生活の質を下げ、健康寿命を著しく短縮するという事態が世界中で起きていることが明らかになっている。この一連の負の連鎖を一括して理解しようというのがメタボリックシンドロームの概念であり、意訳すれば「過剰栄養・運動不足を原因とする糖尿病多発促進・動脈硬化急速促進症候群」と呼ぶべきで、この呼称ならイメージが湧きやすい。実際この疾患では糖尿病の発症は5倍、心筋梗塞死は2倍である。近年50代、60代の心筋梗塞死が目立ち、肥満者の糖尿病と脳梗塞の多発は目をみはるものがある。メタボリックシンドロームは「死への行進」なのである。

診断基準と底辺の広い予備軍の存在
内臓脂肪の増加がこの症候群の原因であり、男性では腹囲85センチ以上、女性では90センチ以上(最近75センチ説が有力)が第一条件であり、そこに3種(高脂血症、高血圧、高血糖)の生活習慣病のうちの2つが加わるとメタボリックシンドロームと診断される。高脂血症は中性脂肪が150mg/dl以上、またはHDL-Cが40mg/dl未満。高血圧は最高血圧が130mmHg以上、または最低血圧が85mmHg以上。高血糖は空腹時血糖が110mg/dl以上と軽症でもこの症候群に入りやすくなっている。この4つの因子がすべて並存すると心疾患は急増し、ひとつも無い場合の35倍になる(死の4重奏)。またこの4因子の並存数が少ないほど危険率は下がる。メタボリックシンドロームに該当する人が40歳以上の日本人男性では2人に1人、女性では5人に1人といわれているが4危険因子のうちひとつ以上持っている予備軍はさらに多数で、まさに現代日本の国民病というべき様相を呈しており、早急に有効な手を打たねばならない事態に立ち至っている。

過剰栄養と内臓脂肪細胞
人体は消費しきれないカロリーを負荷されると一種の炎症状態となり、動脈硬化も促進される。過剰のカロリーは脂肪細胞に蓄えられて脂肪細胞も肥満型となる。脂肪細胞は小型のうちはアディポネクチンという善玉ホルモンを分泌している。このホルモンはインスリン感受性を上げて血糖を下げ、肝臓や筋組織の脂肪消費を促すほかに様々な原因で傷ついた動脈壁を修復する作用もあり、「人体が生産する無料の超高性能長寿薬」というべきものである。脂肪細胞は肥大するにつれてアディポネクチンを分泌しなくなり、血糖を上げたり動脈硬化を促進したりする悪玉のホルモンを出すようになる。脂肪細胞はジキル博士とハイドのような振る舞いをするのである。肥満してはいけない理由がここにある。逆に痩身でいればただで長寿が達成しやすいことになる。

「メタボリックドミノ」という考え方
過剰カロリーと運動不足は最も上流にあって川の流れのように下流にむかって肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病などを生じ、さらに下流に動脈硬化や糖尿病の合併症そして腎不全、失明、脳梗塞、痴呆、心筋梗塞などへ到る「死の行進」をつくりだす。この将棋倒しのような負の連鎖をメタボリックドミノというが早いうちなら元を断つことによりすべてを防げるのである。

メタボリックシンドロームの解消
尼崎市役所では2000年までの10年間に毎年1人〜2人の心筋梗塞死が発生しいずれもメタボリックシンドローム関連なことが分かっていた。1人の保健士が立ち上がりカロリー制限を中心とした生活習慣改善を指導して肥満者の減量に取り組んだところ、2001年から心筋梗塞死 が0になった。この快挙はメタボリックドミノの最上流の過食・運動不足を解消させることがこの症候群の撲滅の切り札であることを示している。

メタボリックシンドロームの教えるもの
低カロリー完全栄養」という食生活の考え方が現代食生活のキーワードである。脊椎動物においては低カロリーが寿命を延ばすことが分かっている。ラットでは食べたいだけ食べる量から40%節食量を抑えると寿命が40%延びる。人間でも筋肉量を減らさぬように運動習慣をとりいれ蛋白質の摂取量は十分量とし必須機能成分である全ビタミンと必須微量ミネラルをサプリメントで補うというのが基本である。  食欲をコントロールする理性の力が過食解消には必須である。極端な夢のような発想であるが、医療費を引き上げている肥満に対して罰則(例えば「肥満税」)のような政策を検討すべき時期なのかもしれない。日本人の平均体重は標準よりも5kgほど重いからである。学校教育でも肥満の危険性を教えるべきであろう。  カロリー制限に関するパラダイム転換の必要性は食品産業をも変えつつある。サントリーは一食分178kcalの完全栄養食品の発売を始めたし、東京のホテルには350kcalのフルコースメニューをつくったところもある。  医療の細分化が糖尿病・高脂血症・高血圧・循環器病などの専門分化を生んだが専門分化の弊害として木を見て森を見ないという状況に陥っていることを医療人は痛切に反省せねばなるまい。この症候群の根底にあるカロリー過剰の問題に医療人も真剣に取り組むべきときが来ている。