ME&YOU診察室のコーナー10月号より

多汗症〜手のひらに汗をかく〜 

汗の異常を自覚している方に効果を上げる内視鏡の手術

 

特別医療法人福島厚生会  福島第一病院
心臓血管病センター 心臓血管外科医長 佐藤 晃一

 手に汗をにぎる

 「手に汗をにぎる」という言葉がありますが、これは過度の緊張状態の表現です。それとは異なり、とくに緊張しすぎでもないし、激しい運動をしたわけでもない、又ひどく暑いわけでもないのにいつも手のひらや足の裏が濡れて不便している、そんな方はいらっしゃいませんか?このような症状は手掌足蹠多汗症(しゅしょうそくせきたかんしょう)という一種の病気の症状です。発汗の程度には差があるようですが、一般的に人口の約0.5%の方が、単なる「汗かき」というレベルを超えた汗の異常を自覚しているようです。つまり200人に一人はこのような症状に悩んでいるという統計です。

どのような症状なの?

 手掌足蹠多汗症では、特に人前に出たときや学校で試験の答案を書いたりするとき、或は書類を扱ったりするときに大変不便です。発汗量が多く、いつも手がベトベトした状態です。医学的に発汗様式は二つに分類されます。1つは数字を逆に暗唱するなどの軽度の精神的ストレスで反応性に発汗量が増加、目をとじたりリラックスすることで発汗量が減少するタイプの人があります。この場合往々にして精神的ストレスの蓄積が関連します。もう一つは汗がでず皮膚が乾燥した状態と多量の発汗をみる状態が交互に訪れるタイプの人があります。このタイプでは幼少時から発症する人が多くまた家族にも同様の症状を認める方が多いようです。

治療法は?

 以前より手掌多汗症の治療には、薬物療法(精神的ストレスに対し抗不安薬、発汗を抑える局所塗布薬など)と外科治療(交感神経切除術)が行われてきました。

薬物療法は?

 薬物療法は精神的ストレスで発汗が誘発される患者さんに用いられてきましたが、比較的若年時から症状が出現することを考えると、薬をのみ続ける治療には限界があります。また汗自体が減少するわけではありませんからその効果も不十分です。局所塗布薬は非常に手間がかかりそれを継続することが困難です。塩化アルミニウムを塗布するのですがアルミニウムはアルツハイマー病との因果関係も問題となったことがありその使用は非常に慎重にしなければいけません。薬物療法では完全に治癒することは期待できません。

外科治療は?

 発汗をつかさどる神経は交感神経で体や心が緊張したときに働きます。これに対しリラックスしているときに働くのが副交感神経です。この二つはバランスよく作用して体の状態を一定に保ちます。しかし多汗症の患者さんはこの交感神経の働きが副交換神経の働きを上回った状態になりやすいのです。ですから交感神経を切除することでこの発汗をとめることができます。手掌多汗症の原因となる交感神経は胸部の背骨のすぐ横に存在します。外科治療は胸部を切開しこの交感神経を切除する手術です。直接その原因となる交感神経を取り除くわけですから効果は確実です。しかしながら手術には痛みを伴い、傷跡が大きく残るので、あんまり普及しておりません。

最新の治療法は?

 外科治療は傷跡が大きく入院期間も非常にながくなり敬遠されてきました。そこで最近は内視鏡を利用して交感神経を切除する治療が広く行われるようになってきました。これは全身麻酔下でわきの下に1cm程度の小さな切開から内視鏡を挿入し交感神経を焼き切る治療です。この治療法では、痛みはほとんどなく、手術時間は一時間程度で傷跡も目立たず、入院も2〜3日ですみます。

交感神経って切ってもいいの?

 交感神経を切除すると手の汗は確実に止まります。しかし手で汗をかかなくなった分、腰や太ももなど下半身を中心に汗がでます。これを代償性発汗と呼びます。ですから手術療法を選択する場合は、ある程度代償性発汗があることは理解しなければなりません。しかし現在は術後水分摂取をコントロールしたり、発汗部の圧迫、通気性吸湿性のよい服装にすることなどでかなりコントロールができます。

まとめ

 多汗症は病気です。しかも内視鏡を使って痛くなく、1〜2泊の入院で治すことができるのです。いままであきらめていた方、知らなかった方いらっしゃいましたら専門医を受診されてはいかがでしょうか。学校や職場での不便は解消します。適切な治療と管理でかなり満足のいく効果が得られることでしょう。