ME&YOU診察室のコーナー5月号より

多汗症について 

〜気持ちの問題ではなく病気。新しい交感神経切除術が効果〜

特別医療法人福島厚生会 

福島第一病院 心臓血管病センター 佐藤 晃一

多汗症ってなに?

 激しい運動や、激しい暑さでもないのに、いつも手のひらや足の裏が濡れているという人がおられます。滴となってポタポタ落ちる、答案用紙や書類がびしょびしょになる、人前で恥ずかしくて手が出せない、靴を脱いで床を歩くと汗で足の形が残る、など様々な悩みを抱えた人たちがいらっしゃいます。程度の差はありますがこのような症状を有する方々が人口の約0.5%程度、単なる汗かきの程度を超えた汗の異常で苦しんでいるということです。このような状態を多汗症といいます。NHKの今日の健康でも「ひどい汗かき」と題して放送されました。

汗ってどうしてでるの?

 汗は体温調節の役割をはたしています。運動や気温などで体温が上昇した際に汗をだして体温を下げ、一定温度でいられるように働きます。この調整を行っているのは脳で、脳からの刺激が脊髄を通り交感神経を通して汗を実際にだす汗腺を刺激します。これを「温熱性発汗」といいます。

手に汗にぎるって?

 緊張したときなどにでる「精神性発汗」とよばれるものがあります。例えば人前で何かをしなければいけない時や、大切な仕事、試験などのおり「手に汗握る」というような状態を思い浮かべていただければ理解しやすいと思います。多汗症はこの精神性発汗で起こる汗の異常のことです。手のひらと足の裏(特に手のひら)に限定した大量の汗をこれといった原因もなくかくことから、医学的には「特発性手掌足蹠多汗症」といわれています。

多汗症の症状は?

多汗症の程度も様々です。「手足が湿っている」程度から「常に指先から汗が滴り落ちる」「いつも手足が湿っているため湿疹ができている」などといった患者さんがいます。このため手を使った仕事をされる方は非常に精神的な苦労をされます。ピアニストやコンピュータ関連の仕事に就かれている方などは、「鍵盤がびしょ濡れになる」、「キーボードが常に濡れている」など深刻なことが多いようです。自分の異常に気づいても過度の緊張症だとか、もっと楽に物事を考えなさいなど周囲はとりあってくれず、心療内科のような病院でメンタルケアを受けていらっしゃることも多かったようです。結果はもちろん精神の病気、気持ちの問題ではないので治るはずはありません。

多汗症の治療法は?

多汗症には交感神経が関与しています。このため交感神経をブロックするのが治療の中心でした。手のひらの汗は胸部の交感神経を、足の裏の汗は腹部の交感神経へ針を用いてアルコール注入を行っていました。しかし再発や副作用もあり現在はほとんど行われておりません。胸部を切開し外科的に交感神経を切除する手法も行われてきました。これも大掛りで傷跡も目立つため敬遠されがちでした。

新しい治療法ができたって?

 ここ数年は内視鏡の発達に伴い全身麻酔下に、わきの下に小切開を2〜3箇所つけ、そこから内視鏡と電気メスなどを挿入し交感神経を切除する方法が導入されました。これにより患者さんの手術の傷跡がほとんどわからない程度で治るようになりました。入院もせいぜい3〜4日程度で満足できる結果となりました。またこの治療で多汗症ばかりでなく、赤面症に悩んでいた人が両方の症状がよくなったという報告もみられます。

再発することはあるの?

 ごくわずかですが再発もあるようです。交感神経の走行が複雑で汗腺を刺激するルートが何本も存在する方は再発することがあります。内視鏡手術ですので、肺と交感神経が癒着しているような方は十分効果的な交感神経切除ができない場合もあります。またほぼ全員に代償性発汗というのがあります。これは、手の汗は止まったが代わりに腹部や臀部、大腿部に汗がでるようになることです。しかしこれらの部位の汗は特に人目に触れる機会も少なく、以前の手の汗に比べ皆さん十分我慢できうる範囲のようです。

まとめ

多汗症は個人の性格によるものではなく、れっきとした病気です。精神的な治療では決してよくなりません。現在は交感神経切除術といった効果をあげている治療法があります。お心当たりのある方は専門の医療機関を受診されてはいかがでしょうか。