ME&YOU診察室のコーナー8月号より

放置しておくと怖い足の静脈炎

 

 

特別医療法人福島厚生会 福島第一病院 

心臓血管病センター 循環器科部長 小川 智弘

 

はじめに

最近、飛行機搭乗中におこるエコノミークラス・シンドロームといった言葉に代表される肺塞栓症(肺血管に血液の塊が詰まる病気)は突然死の原因の一つであり、その数も増加しております。肺塞栓症を起こす血液の塊(血栓)の90%以上が足の静脈炎(深部静脈血栓症)によるものであり、それゆえ足の静脈炎の診断、治療および予防は重要であります。

足の深部静脈血栓症とは?

静脈に血液の塊ができ、静脈血液の流れが悪くなる病気ですが、その多くは足の静脈に認められます。静脈にできた血栓がはがれて心臓を経て、肺に流れ、肺動脈につまれば、肺塞栓症となります。症状が出現する肺塞栓症は氷山の一角であり、症状がない肺塞栓症が、深部静脈血栓症にはかなり認められます。さらに深部静脈血栓症では遠隔期において静脈についている弁が破壊され、静脈血が逆流するようになり、静脈血液循環を悪化させます。

症状は?

まず、急激な足のむくみが生じ、それに伴い、パーンと腫れた感じと、痛みが生じるようになります。さらにひどくなると、動脈の流れまでも悪くなり、足がチアノーゼになってきます。 また慢性化した場合は、静脈瘤になったり、皮膚が褐色になったり、ついには皮膚が潰瘍になることもあります。

どのような人がなりやすいのか?

血栓が出来るには3つの要素があります。1.血管の障害、2.血液の鬱滞、3.血液凝固異常の3つに該当する場合は深部静脈血栓症になりやすくなります。具体的には、手足の外傷、血管内カテーテルの長期間留置、長期臥床、妊娠出産、悪性腫瘍、外科手術後、先天的な血液凝固異常、血栓症の既往、飛行機搭乗中などが危険因子として挙げられます。

放って置くとどうなるの?

深部静脈血栓症を放置しておくと、肺塞栓症の原因となるだけでなく、その後、足のだるさ、痛み、静脈瘤、皮膚潰瘍などの血栓後遺症状が出現するようになり、日常生活に著しく支障をきたすようになることがあります。しかし、血栓症の早期に適切な治療をおこなえば、肺塞栓症および血栓後遺症を予防することが出来ます。

どのように診断するの?

まず、手足のむくみ、同部の緊満感、痛みなどの症状を参考に、血液検査および血管エコーにて、短時間に外来で痛くなく、深部静脈血栓症の診断ができます。さらにくわしく検査するために、CT, MRI, 血管造影などを必要とすることもあります。

治療法は?

深部静脈血栓症の急性期には、手術により血栓を除去する方法と、血栓を溶かす薬を注入する方法とがあります。最近では手術は重症の場合や血栓を溶かす薬が使用できない場合に限ります。薬を点滴して、血栓をより確実に溶かす方法として、血栓内にカテーテルを留置し、直接的に薬物を注入する方法も行われております。 慢性期には、薬物および医療用弾性ストッキングによる血栓の再発防止を行います。その他、足の静脈炎が再発する場合には、肺塞栓症の予防のために、血管内カテーテルを通じて、大静脈にフィルター(血栓が心臓、肺動脈に行かないようにするもの)を留置することもあります。

予防法は?

血栓が出来やすくなる原因を少なくすることが大切ですが、血栓が出来やすい状態であっても、医療用弾性ストッキングの着用、適当な運動、医療器械によるマッサージによって足の深部静脈血栓症は予防することが出来ます。 最後に 足の静脈炎(深部静脈血栓症)は放置しておけば、生命に危険をもたらす肺塞栓症を併発したり、後になって血栓後遺症で悩まれることも少なくありません。早期に適切な治療を行えば、十分にそれらを予防することができます。心当たりがある方は専門医に相談してください。