福島民友新聞社「ME&YOU」2月号診察室のコーナーより

 

術後の回復が早くなり

早期退院が可能な治療法

 

福島第一病院

心臓血管病センター長 緑川 博文

 

虚血性心疾患とは?

 

 狭心症と心筋梗塞をまとめて虚血性心疾患と呼んでいます。狭心症、心筋梗塞は、いずれも心臓の筋肉(心筋)に栄養を送っている冠動脈に、主に動脈硬化による狭窄あるいは閉塞が生じ、血液の供給が減るか途絶することによっておこります。狭心症と心筋梗塞の大きな違いは、心筋が回復するかどうかで、狭心症では心筋が壊死していない状態であるのに対し、心筋梗塞では早期に血流の再開通が得られなければ心筋は壊死した状態(心筋が収縮しない状態)に陥ってしまいます。

 近年我が国の虚血性心疾患の人口十万対死亡率の増加は著しく、昭和25年は約10人に過ぎなかったものが、平成9年には約60人と6倍に増加しており、このデータを福島県に当てはめれば、年間約1200人の方々がこの疾患で亡くなられていることになります。

 

治療法は?

 

 主に薬物療法と血行再建術に大別されます。薬物療法としては主に冠動脈を拡張させる亜硝酸剤、カルシウム拮抗剤及び、血液を固まりにくくし血栓(血液の固まり)をできにくくする抗血小板剤などがあります。

 血行再建術には、経皮的に挿入したカテーテルと呼ばれる風船やステントと呼ばれる金属の筒で冠動脈の狭くなった部分をひろげる経皮的冠動脈形成術(PTCA)と、自分の胸の裏側についている内胸動脈などの動脈グラフトや下肢に存在する大伏在静脈などを使って、大動脈と冠動脈の橋渡しをする冠動脈バイパス術があり、両者は病変の程度により使い分けられています。

 

従来の冠動脈バイパス術の問題点は?

 

 現在冠動脈バイパス術は、全国で約2万例に行われており、心臓外科医が行う最も一般的な手術となっています。冠動脈は約2mmほどの太さしかなく、常に動いている心臓の状態では吻合が困難であることから、従来は一時的に心臓を停止させるために人工心肺装置(患者さんの心臓と肺を停止している間に、全身の血流維持と血液の酸素化を行う装置)を使用して行っていました。

 しかし、そのことに起因する脳梗塞の合併、非生理的循環状態による全身臓器への侵襲度から呼吸不全、腎不全などの合併症を有する患者さんや80歳以上の超高齢な患者さんへの施行は大きな手術リスクになる可能性があります。

 

低侵襲冠動脈バイパス術とは?

 

 人工心肺装置の問題点を解決すべく、1996年ごろからこれを使用することなく、種々の器具を使用し心臓を拍動させたままバイパス術をする低侵襲冠動脈バイパス術が施行されるようになってきました。当センターでは、1999年よりこの手術を導入し、2001年は全冠動脈バイパス術の60%をこの術式で行っています。この術式導入により超高齢者といわれる80歳以上や多くの合併症を有する患者さんにも積極的にかつ安全に施行することが可能になったこと、手術侵襲が小さいことから術後の回復が早くなり、より早期の退院が可能になっています。  

 

低侵襲冠動脈バイパス術の今後?

 

 この手術は、低侵襲性及び治療成績から優れた治療法であることはいうまでもありません。しかし現時点では、すべての病変に対応できるまでにはいたっておらず、困難な病変に対しては従来型の冠動脈バイパス術が選択される場合もあります。また、拍動している状態で細い血管をつなぐために、より高度な技術が要求されるため、全ての心臓外科医が可能なわけではありません。

 しかし、患者さんが受ける恩恵の大きさから考えて、近い将来は冠動脈バイパス術の大部分は低侵襲冠動脈バイパス術になっていくと考えられます。


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