福島民友新聞社 ME&YOU8月号 診察室より

 

「死の四重奏」の逆をいこう。

 老化することによって人は徐々に死に近づくわけですが、老 化といっても様々な現れ方があ ります。本当の老化とは細胞が もはや分裂も増殖も出来ない限 界に達することでしょう。細胞 は分裂する毎に染色体の一部の テロメアという部分が短縮し、 もはやもう短くなれない限界に 達すると死に至ります。そうし た細胞が元来持っている生存の 限界とは別にライフスタイルや 治療によって是正出来る老化と いうものがあり、その主原因は 動脈硬化と考えられています。 日本人の死因の過半数は脳血管 障害や虚血性心疾患などの動脈 硬化に起因する病気であること を考えると「人は血管とともに 老いる」という言葉の重みがはっ きりするでしょう。

 

福島第一病院 消化器科部長

柳沼 信久

 

  

<動脈硬化とは>

動脈とは心臓から送り出され る動脈血(酸素運搬と栄養供給 を受け持つ)を全身に送るホー スのような管状の構造物で、全 身にくまなく動脈血を送るべく 次々に枝分かれして最後は毛細 管に至ります。動脈の壁は三層 になっていますが、動脈硬化で は一番内側の内膜に次の変化が 起こります。酸化した悪玉コレ ステロールを取り込んだ泡沫(ほうまつ)細 胞が集団的に屍骸(しがい)となって残り、 この部分が内面に突出して内腔 が狭くなります。ホースが狭く なったやうな状態ですから中を流れる動脈血も少なくなり、硬化した動脈が養っていた器官へ の酸素と栄養の供給が減ります。 このため慢性的な臓器の機能不全がおきます。

 

<動脈硬化の最終像〜血栓 による閉塞>

動脈硬化でコレステロールが塊となって蓄積した部分をプラ ークと呼びますが、この盛り上りの肩の部分がもろいため、ここに亀裂が入ると、そこで血液凝固が促進され一挙に血栓とい う血の塊ができて動脈の内腔を詰まらせる事件がおきます。そのときその動脈に栄養されてい た臓器の一部分が死に至ります。 心臓におこれば心筋梗塞(こうそく)、脳におこれば脳梗塞です。

 

<死の四重奏とは?>

 このように動脈硬化が動脈血栓の主因であり、かつ血流供給不全による臓器の機能低下をもたらす事を考えると、動脈硬化 を起こしやすい条件を知る事が 重要になります。動脈硬化を促進させる危険因子は数多くあり ますが、多数集積すると加速度的に動脈硬化を促進させる事が分かっています。

 米国では心筋梗塞を多発させる危険因子集積状態に注目する学者が現れ、1989年にはカプランが「死の四重奏」という組み合わせを提唱しました(喫煙をいれて死の 五重奏ともいいます)。上半身肥満(内臓脂肪蓄積)、高中性脂肪血症、耐糖能異常(糖尿病、境界型糖尿病)、高血圧の四つが集積すると致死的な心筋梗塞が高率に発生する事を発見した のですが、各種の大規模治験で もそのことが裏付けられていま す。これらはいずれも過食、運 動不足などの悪い生活習慣が原 因となった状態で互いに関連し あっています。

 

<理想値をめざせ365日>  

 「死の四重奏」が死に至る動脈硬化を引き起こすならその逆 を行けば動脈硬化は激減するはずです。実際に悪玉コレステロ ールが80ミリグラム/血清100ミリリットル以下や中性脂肪値70以下では心筋梗塞の発生率は0ということが分かっております。肥満や糖尿病もカロリー制限や運動習慣によって是正出来るし、高血圧や高脂血症も治療目標値に下げられる優れた 薬剤が揃ってきました。若いう ちから365日理想値を達成出来れば動脈硬化もおこらず、硬化巣のプラークも小さくなること がすでに分かっています。

 

 

<動脈の老化を防ぐ多数の新 薬の登場>  

降圧薬の研究からレニンーア ンギオテンシン系という血圧調節システムが老化に密接に関連することが分かりつつあり、この系の一部を抑えると動脈のみ ならず全身の老化を抑制出来そうだということが注目され始めております。降圧薬の選択にこの事を視野に入れる必要が出て くるでしょう。コレステロール では昔は考えられなかった値ま での降下が可能な薬剤も出てきました。薬剤の選択によっても健康な長寿が可能な時代に入りつ つあるといえるでしょう。