ME&YOU 3月号診察室

 

 

破裂すると難しくなる手術

苦痛の少ない新治療法が登場

 

 

執筆

(医)福島厚生会 理事長
福島第一病院 心臓血管病センター
理事長 星野 俊一

 

大動脈瘤とは?

最近高齢化社会の影響で大動脈瘤(りゅう)の患者さんが著しく増加してきているのが目立ちます。大動脈が「こぶ」のように膨れた状態を大動脈瘤と呼びます。こぶの大きさは、大きなものでは10cm以上にもなります。

 

大動脈瘤ではどんな症状がでるか?

大動脈瘤がおこっても普通は痛みはありません。瘤(こぶ)がある程度以上の大きさになると周囲を圧迫して、そのための圧迫症状がでるくらいですので本人は気がつかないですごしていることが多いのです。

 

大動脈瘤を放っておいたらどうなるか?

大動脈が血圧によって膨れて大動脈瘤が形成されるので、決して自然に縮むことはありません。進行の差はあっても徐々に大きく膨らんできます。そして最終的には破裂してしまいます。腹部や胸部の大動脈瘤の破裂は出血死に直結するので用心しなければなりません。

 

腹部大動脈瘤の発見と治療は?

お風呂に入っておなかを洗っているときに「ヘソのあたりにドキン、ドキンする塊に触れた」と話された患者さんもおられました。このようにヘソの辺りか、または、やや左側に拍動を伴った手拳大の塊が触れます。もし痛みがおこったら、それは破裂しかかている症状です。腹部大動脈瘤は、エコー検査や検診で偶然に発見される場合が多いようです。おなかのドキン、ドキンする塊が子供の拳(こぶし)くらいの大きさであたら、それは警戒警報ですので直ちに精密検査が必要です。瘤が破裂まで至っていなければ、現在では手術の危険度がほとんどないくらい、安全となっています。しかし、破裂してしまうと手術は大変難しくなることは事実です。作家の司馬遼太郎氏は破裂したために助かりませんでした。腹部大動脈瘤の治療法は現時点では手術以外にありません。瘤を切除して人工繊維で作った人工血管を使ってつなぐ手術です。手術時間は2〜3時間くらいです。転ばぬ先の杖(つえ)として手術を考えなければなりません。最近どうしても手術は「イヤ」だという人に朗報があります。それは「ステントグラフト内挿術」という治療法ですせた。おなかを切開しないで、もものつけ根の小さいきずから、大腿動脈の中をステント(細かいステンレススチールの網目状の筒)の上にかぶせた人工血管を挿入して、レントゲン透視をしながら大動脈瘤を中から治す新しい技術です。私たちは数年前からこの方法を導入し、胸部大動脈瘤を含め既に六十人をこの方法で治療しました。この方法ですと手術翌日には食事ができ、トイレまで歩くこともできます。ほとんどの人が2週間くらいで退院でき、もとの普通の生活に戻ることができました。

 

胸部大動脈瘤の発見と治療は?

胸部大動脈瘤は腹部と同様に初期には無症状で、検診やかぜで受診したときなどに偶然に胸部レントゲン写真でみつかることが多いようです。瘤が大きくなるにつれて、せき、かすれ声、胸部や背中の重苦しい感じが出てきます。放っておいて瘤が破裂してしまうと結果は腹部大動脈瘤と同じくなりますので用心しなければなりません。治療法は腹部と同様に手術のほかはありません。胸部大動脈瘤では腹部より手術は大きくなるのはやむを得ませんが、破裂してしまうよりましと考えてください。しかし最近は、腹部大動脈瘤と同じく、ステントグラフト内挿術の応用が朗報です。患者さんの苦痛は、ごく軽いといっても過言ではありません。学術的にはもう少し詰める必要のあることも事実ですが、実地臨床において、私の経験では、安全性はほぼ確保されてきたと考えています。胸部には解離性大動脈瘤(大動脈解離)もありますが本誌1月号をご参照ください。これに対してもステントグラフトによる治療が試験段階に入っています。大動脈瘤は現在では決して不治の病気ではなく、治すことのできる病気です。大きなきずをつけず苦痛の少ない新しい治療法として、ステントグラフト内挿術が登場しました。ポイントは治療のタイミングを失しないことです。そのためには年1〜2回の検診は大いに役立つことでしょう。