2016.12月号より

健康と若さのための腸内フローラB

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


腸内善玉菌の働き
 人類の数百万年にもわたる歴史の中で、どんな時代でも腸内細菌は腸の中で排除されることなく生存し続けてきた人間のパートナーでもある。近代の生活様式や生活環境は、大きく変化してきた。いつでも好きな時に好きな食物を食べられる飽食の時代となるにつれ、腸内環境は悪化し生活習慣病を引き起こす要因にもなってきている。
 乳酸菌は腸内環境を改善する
 乳酸菌は乳製品にのみ含まれているものと思われがちだが、実は植物性の食物にも沢山の乳酸菌が含まれている。乳酸菌は糖を発酵し乳酸などの有機酸を生成する菌のこと。腸内に定住している善玉菌を増やす一方で、自ら悪玉菌をやっつける働きもしている。また乳酸菌のバックアップを受けた善玉菌はパワーアップし病原菌を撃退、コレステロールの上昇を抑えるなどの働きもしている。
 腸内環境と美肌効果
 一見無関係のように見えるが、もし善玉菌の勢いが弱くなり悪玉菌が増えると、腸内では腐敗が進みアンモニア・アミン・フェノールなどの有害物質が発生する。有害物質は腸から吸収され、全身を巡るため肌の張りは無くなり、吹き出物やブツブツなどの原因ともなるので御用心。
 腸内環境と成人病のリスク
 腸内細菌のバランスの乱れは腹痛、便秘、下痢などの便通異常や過敏性大腸炎、潰瘍性大腸炎、大腸がん等の腸の病気のリスクを高める原因にもなっている
。  アメリカの最近の研究報告では動物実験で、太ったマウスの腸内細菌を痩せたマウスの腸内に移植すると、痩せたマウスは肥満になるという報告がある。脂肪を燃やす働きのある短鎖脂肪酸という物質をつくり出す腸内細菌の数が少ないと、太り易く肥満になるという結果であった。
 実際、便秘の人は動脈硬化と関連する心臓血管の病気を引き起こす危険性が高いという報告もある。
 外界と直に接する腸の粘膜には体を異物から守るため、免疫システムの約7割が集中している。善玉菌は腸を酸性にして病原菌をやっつけるなど免疫力を高める働きをするのに対し、悪玉菌は抵抗力を弱めるとされている。そのため腸内環境のバランスが乱れると免疫システムに異常を来たし、アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー性疾患を引き起こし易くなる。
 腸内善玉菌の便移植
 現在薬剤では治療が難しいとされる大腸疾患に対し、健康な人の便を患者の腸内に移植する治療法が注目されている。便移植治療は既に一七〇〇年前、中国で行われていた。最近アメリカ・オランダ・カナダなど広く全世界に広がっている。
 日本においては慶応大学、千葉大学、順天堂大学などで既に便移植の治療法が臨床の現場で行われている。
 対象になっている疾患は、通常治療では治療効果が得られない偽膜性大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患や難治性便秘症など。
 健康な成人の便約100cを生理食塩水に溶かし、フィルターで濾過してから大腸内視鏡を使用して腸内に注入する方法で行われている。
 健康でバランスのとれた腸内細菌を持った人からの大便移植は拒絶反応もなく、薬物を使用しない自然療法となる可能性を秘めている。既にアメリカでは便移植がメジャーな治療法にもなっているようだ。日本ではまだまだこれからの状況で、実施している医療機関も少ない。しかし腸内細菌バランスの乱れによって生ずる難治性疾患や生活習慣病、糖尿病などに対し薬剤副作用の心配が全く無い、古くて新しい便移植は将来発展が期待される治療法である。