2016.6月号より

熊本地震とエコノミークラス症候群

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


4月14日夜、熊本地方を震源とする震度7の地震に引続き、16日にも震度6強の地震が発生、以後余震が多発、人々は住み慣れた家を離れ厳しい避難生活を強いられている。避難生活は予想外の長期に及ぶ可能性があり、避難中の二次的健康被害、特にエコノミークラス症候群や感染症などの対策が問題となっている。
 エコノミークラス症候群
 もともとは長時間の旅客機による海外旅行の際に発生する致命的ともなる肺塞栓症のこと。とりわけ座席が狭く窮屈なエコノミークラス席で発病する確率が高いためにエコノミークラス症候群と呼ばれているが、実際には長時間の自動車運転者や長距離トラック運転手などにも発症している。
 エコノミークラス症候群の原因は長時間座ったまま動かず同じ姿勢でいることが問題。特に膝を曲げたままの姿勢は足の静脈が圧迫され、静脈系にうっ血を来たし、血流が悪くなり血の塊(血栓)をつくり易くなる。血栓は血流に乗って下大静脈から心臓を通り抜け、肺へ流れ着き肺動脈を詰まらせ、肺塞栓症となる。肺動脈が血栓で詰まるとその先の肺胞に血液が流れず、ガス交換ができず、酸素を取り入れられなくなることが病態のもと。呼吸困難と胸痛が生じ、急激かつ広範囲の場合は肺塞栓症により死亡することもある。
 どうしたら予防できるか
 エコノミークラス症候群は致命的になる病気だが、ある程度は予防できる病気。足の静脈に血の塊ができないようにすることが基本。飛行機旅行する際、ひどく揺れている場合は無理だが1時間毎に立ち上がり、足を動かす事がポイント。機内で座ったままでも足先を持ち上げたり、下げたりするチックタック運動やマッサージは予防に効果的。トイレに歩いて行くだけでもかなりの効果がある。特に飛行機の中は空気が乾燥しているので水分補給は大事。体の水分が減り脱水傾向となると血液が濃縮し、血栓ができ易くなる。ビール等のアルコール飲料やお茶、コーヒー等カフェインを含む飲み物は利尿作用があるため脱水を引き起すので要注意。足にむくみや静脈瘤がある人は特に血栓予防のため、弾性ストッキングを着用するのがおすすめ。
 避難生活では、狭い自家用車での車中泊は、エコノミークラス症候群発症に対して極めて危険度が高いので避けるのが賢明。
 避難生活が長期に及ぶと…。
 熊本地震では、地震後1週間経過しても9万人以上が避難所に身を寄せている現状で、多くの人が車中泊を余儀なくされている。エコノミークラス症候群など震災関連死とみられる人は11人に上ると報道されている。
 阪神淡路大震災の際、急性心筋梗塞は約3倍と多く発症しており、60歳以上の高齢者に多く見られている。普段高血圧の薬を飲んでいる人は震災前後の血圧は有意に上昇を示していた。持病があり普段薬を服用している人は、なるべく継続することが望ましい。テレビで放映された緊急用簡易ベッドの導入は、手足を伸ばしたり曲げたり体位変換が容易であり、特に高齢避難者の体調維持のためにも、またエコノミークラス症候群の予防にも役立っている。水・食料と共に緊急避難のためには準備すべき必須のものではないだろうか。
 避難生活での感染予防
 風邪、肺炎、インフルエンザなどの呼吸器感染症は過密状態の避難所では大流行を起こしやすい。またノロウイルス感染症予防も欠かせない。水での手洗いが基本であるが、溜め水でも効果は期待できる。長期にわたる避難生活において、感染症対策は常に重要な課題となる。