2014.12月号より

『 災害避難とエコノミー症候群 』

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


 エコノミー症候群とは
 エコノミー症候群とは、もともと飛行機で旅行中に足の静脈に血液の塊(血栓)が生じ、飛行機が目的地に着陸し席を立った途端に、その血栓が血管壁から剥がれ静脈の血流にのって肺にとび、肺の血管を詰まらせ急性肺動脈塞栓症を発症、生命の重大なリスクとなる病気。この血栓が脳や心臓の血管を詰まらせると脳梗塞や心筋梗塞などが発症する事も稀にはある。
 発症するのは長時間の飛行機旅行のエコノミークラスに起るケースが最も多いのでこの名称で知られているが、ビジネスクラスでもファーストクラスでも起る。飛行機内では長時間座ったままの姿勢でいる事が多く、下肢を圧迫し、足の静脈にうっ血を起し、血栓ができやすい状態となる。更に飛行機内では常に空調されているため空気が乾燥しているので、脱水症状になり易く、ビールや酒を飲むと利尿作用のため更に脱水状態が亢進し易い。下肢に静脈瘤のある人、足に手術や外傷を受けた人、深部静脈血栓症になったことのある人、肥満者、経口避妊薬を飲んでいる人、妊娠中、高齢者などではエコノミークラス症候群にかかり易いので要注意。
 エコノミークラス症候群の予防法
 飛行機の内では座りっぱなしでいる事が多いのでどうしても足の血液の流れは悪くなる。気流が安定している時には狭いながらも少し歩き、ストレッチなど体を動かす事。座席に座ったままでも両足のつま先や踵を何回も持ち上げる運動を一時間に一回ぐらい5分位動かす事がおすすめ。飛行機に乗る時にはジーパンなど体を締め付ける服は避け、ゆったりとくつろぎ、特に6時間以上のフライトでは弾性ストッキングの着用もおすすめ。筆者は外国旅行ではいつも愛用している。
 災害避難所でのエコノミー症候群
 近年の大災害、阪神淡路地震、新潟中越地震、東日本大震災においては、周辺避難所で多くの被災者がエコノミー症候群に罹患した事実が報告されている。災害によって住宅が被災したため車内泊を余儀なくされた被災者がエコノミー症候群(肺塞栓症)で死亡した事から問題視された。東日本大震災においてもその症候群の実体が次第に明らかになってきている。自治医科大学から60代女性の車中泊後に肺塞栓症を発症した例が報告され、また仙台の40歳女性が車中泊後に心肺停止になり、治療で蘇生した例などが報告されている。
 東日本大震災発生直後各避難所で福島医大を含む医療チームが、超音波検査により下肢静脈血栓の有無を検査した。避難者945名のうち血栓が認められた人は210名(9.5%)と高率であった。血栓が大量であったり、遊離の危険性が高い11名(5.3%)は病院に搬送され、幸いエコノミー症候群を発症した事例は認めなかった。
 災害時のエコノミー症候群対策
 歴史的に見れば第2次世界大戦中大空襲のためロンドン地下鉄避難所に約18万人が避難し、雑魚寝や座ったまま寝た人々の中にエコノミー症候群が多発した事例があった。イギリスは戦時中にもかかわらず40万個の簡易ベッドを地下鉄構内に用意した。簡易ベッドが設置された後ではエコノミー症候群による死亡例はなく、循環器疾患や呼吸器疾患も減少したと報告されている。
 現在アメリカ緊急管理庁(FDMA)では災害時には即座に数万個の簡易ベッドを被災地に送っている。車中泊や雑魚寝の形式は安価な非難形式ではあるが、健康問題から望ましいものではない。水の補給や炊出しは勿論重要ではあるが今後想定される大規模災害に対する備えは今からでも遅くない。