2014.11月号より

『 肥満パラドックス 』

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


 従来、太っている人は高血圧、心筋梗塞や糖尿病などの病気にかかり易いといわれてきた。実際、有名なフラミンガム研究においても太っている人は心不全になるリスクが高いことが立証されている。ところが最近の研究報告によれば心不全の患者の予後の調査においては、太っている人の方が生き残り、長生きするという報告が散見される。この現象は今までの常識を覆すもので、肥満による逆説―肥満パラドックス―と呼ばれている。肥満パラドックスは心不全に限らず高血圧、心筋梗塞、慢性閉塞性肺疾患、悪性腫瘍などにも認められるともいわれている。
 今年になってアメリカの権威のある循環器病の専門誌に「肥満パラドックスはやはり真実か」と題する論文が発表された。この研究はヨーロッパ8施設、アメリカ2施設、日本およびアルゼンチンから各々1施設が参加した研究である。それによる肥満の定義は世界保健機構WHOのガイドラインに従って、BMI18.5〜25を普通体重、25〜30を過体重、30以上を肥満とし、過体重や肥満のグループと普通体重のグループを比較した研究である。対象症例は急性心不全で入院した患者。データのはっきりしない患者やBMI18.5未満の患者は除外している。解析対象となった患者は6142例。
 データの解析の結果は30日後、1年後の生存率はともに肥満群で最も高く、次いで過体重群、普通体重群の順であった。この傾向は特に75歳以上の高齢者において顕著にみられた。高齢者で心臓が具合悪い患者、普通体重の人は長期の予後は不良であるので、体重管理には特段の配慮を必要とすると述べている。
 日本人でも肥満パラドックスは当てはまるか?
 東京慈恵会医科大学の小武海公明の説では心不全で入院した患者219名をBMI13.8〜21.4、21.4〜23.7、23.7〜26.9、26.9〜48.1の4つのグループに分けて比較検討した。「BMIが高いグループの方が、低いグループより死亡・心不全入院が少ない」と肥満パラドックスは日本人にも適合すると結論している。また平成16年3月に開催された日本循環器学会で心臓血管研究所の後藤理人は同様の傾向を発表した。心不全337人の解析において痩せ群、正常群、過剰体重群、肥満群に分けて分析した。肥満は心血管病発症のリスクはあるが、BMIが高い方が心不全による入院後死亡率は低く、心不全の長期予後は良好であり、「日本人においても肥満パラドックスは当てはまる」と述べている。
 パラドックスに醒めた意見も
 今までの常識とはかけ離れた肥満パラドックスには様々な意見がある。それはBMI自体が全ての人に同じように適応できる尺度ではない可能性があるということ。つまり間違った指標で過体重や肥満を評価しているかもしれないということ。BMIは個人の体型を見定めるには、たしかにあまり正確な指標ではない。なぜなら性、年齢、健康状態などの条件がパラメーターによって大きな影響を及ぼしていることが問題。そもそもBMIは体重と身長の2乗の比として計算されている。現在の指標は19世紀半ばにベルギーのある統計学者によって作り出され、約1世紀後、保険会社と研究者によって、人口における肥満の分布を研究するために採用されたものであり、目的が異なる指標ではある。
 どっちが本当か
 あるアメリカの心臓専門医の見方、肥満パラドックスは一連の統計学的研究に基づいてはいるが、痩せている人は肥っている人と比較して必ずしも健康であるとはいい難いという見解。皆さんは肥満パラドックスのどっちを信じますか。