2012.11月号より

『 運動のプラシーボ効果 』

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


 広辞苑にやまい(病)は気からとある。古くから病気は気持ちの持ち方一つで悪くもなり、良くもなると伝えられている。進歩した近代医学をもってしても尚実感としてこれを否定できないものがある。薬の効果判定の際には実薬と薬効成分の入っていない偽薬の両方を投与し、データを比較する手段がとられる。薬効成分が含まれず、効く筈のない偽薬でも時にかなりの効果がみられることが往々ある。この現象は「プラシーボ効果」と呼ばれている。  

 実際、抗うつ剤の治験で、1998年カーシュ先生はうつ病に対して理論的に効果がある抗うつ剤(実薬)と、薬効成分を含まない偽薬を投与した比較試験のデータを報告した。それによると2318例のテストにおいては実薬では25%に抗うつ効果がみられたが、薬効成分を含まない偽薬による効果は51%にみられ、プラシーボ効果とされた。  

 アメリカの有名なハーバード大学のクルム・ランガー先生は運動についてもプラシーボ効果と同様の現象を2006年に発表した。アメリカでホテルの清掃に従事している女性80人に対して「今あなた達がやっている仕事は実はとてもいい運動です。お掃除という運動は身体にいいんです。WHOが推奨する1日30分の運動以上に相当します。その効果として体重は減り、血圧が下がったり、様々な健康効果をもたらす筈です。」と講義し、更にプラカードを事務所に貼っておいた。一ヶ月後に体重、BMI、血圧などを検査して、講義を受けなかった人達とのデータを比較した。比較表を以下に示す。  

体重の変化
講義を受けた群の体重は平均66.1キロから64.7キロに減少した。一方講義なしの群では体重減少はほとんど見られなかった。

BMI体格指標(体重÷(身長×身長))の変化  
講義を受けた群では26.1から25.7に減少したが講義を受けなかった群では変化がなかった。  

体脂肪率(肥満基準値25〜30)の変化  
講義を受けた群では34.8から34.3へ減少したが講義を受けなかった群では却って微増を示した。  

ウエストヒップ比  
標準値は0.82、講義を受けた群では0.83からやや減少、スマートになったが、元々やや太めであった講義を受けなかった群では却って増加した。  

血圧の変化  
もともと正常範囲にあった群では収縮期および拡張期血圧とも低下傾向を示したが、講義を受けた群ではより著明であった。  

まとめ  
この結果から講義を受けた群では掃除はとても良い運動であると認識しており、日常生活での運動量も増えたと回答している。ランガー先生らは「もしかしたら運動は意識しないとプラスの効果はないのかもしれない。運動においてもプラシーボ効果があるのかもしれない。」と述べている。日常生活においても家庭の仕事、歩くこと、身体を動かすことを運動として意識することが、肥満の解消や血圧に良い影響を与える可能性があるという結論です。