2011.6月号より

『 大震災の後遺症 』

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


東日本大震災が発生してから二ヶ月を経過した現在、死者一万四千九百八十一人、行方不明九千八百五十三人、また依然として十一万五千九十八人が避難生活を余儀なくされている。福島県内では死者・行方不明者二千三百人を数え、約五万九千人が県内外で避難生活を送っている。原発事故終息の見通しが見えず、被災地者 というだけで診療拒否さえ起った。 正確な情報、正しい理解、パニ ックにならない行動が求められる 。

 放射線圏内の拡大

 大地震、津波の直後、原発周辺半径3q圏内住民への避難指示に始まり、 10 q圏内、次いで 20 qに拡がった。更に水素爆発による放射線の健康 影響が懸念され 30 qまで拡大した 。 3月 15 日に降った雪の中に福島市において 20 マイクロシーベルト( μ Sv/h )が 記録され健康被害が問題となった 。 直ちに健康被害はないと 政府見解が繰り返し報道されたが 、 4月 11 日には葛尾村、浪江町、飯舘村、川俣町山木屋、南相馬市の一部に計画的避難勧告が出され、更に半径 20 〜 30 qについては緊急避難準備区域が設定された。

 放射線の健康被害

 もとはと云えば原発事故の初期対応のミスが最悪の状態メルトダウンにまで至ってしまい、放射能被害が深刻になった。放射線に関してはよくわからない、見えないために疑心暗鬼になっている傾向がある。日本は広島、長崎の原子爆弾での悪夢があり、核問題はいつも議論が沸騰する。 1986 年ウクライナ共和国のチェルノブイリ原発の4号炉で大きな爆発事故が起きた。原子炉内にあった大量の放射性物質が大気中に放出された。放射性物質は風に乗り世界各地に広がり、チェルノブイリから 8000 qも離れた日本でも野菜、水、母乳などから放射 能が検出された 。 山下俊一先生 ( 福 島医科大学特命教授)はチェルノブイリ原発事故で核に汚染された大地で長年仕事をなされ、現地住民を診療し調査研究を行った。放射性セシウムで汚染された土壌に住み続け、更に汚染された食物も少なからず食べ続けて来た数十万人の地域の住民と共に生活された。彼らの年間被曝線量は数 10 から 100 ミリシーベルト( mSv )まで幅があるが明らかな発ガンのリスクは確認されなかったと述べておられる。チェルノブイリでは事故直後、汚染された牛乳による小児甲状腺ガンの激増が唯一の一般住民における健 康影響だったと記述されている ( 福 島県医師会報 73 巻)。

 放射線に対する理解と対応

 国際放射線防護委員会( ICRP )は広島・長崎の被爆者のデーターをもとに 100 mSv 未満を安全基準とした。 100 mSv を超えるとガンの発生が増えるといわれているが、 100 mSv 以下ではデーターはなく、不明で ある 。 中川恵一准教授 ( 東京大学 ) は野菜不足でも年間 100 mSv 、タバコで 2000 mSv と同じ発ガンリスクがある 。 妊婦 、 幼児は避難した方がいいが、大人は心配する事はないと述べ、柔軟な考え方が必要としている。また特別養護老人ホームの入所者は動かさないのが一番安全と述べている。

 放射線より身を守る

  実際に仕事や学校があるため、遠方 への避難は難しいという方は多い 。 長野県の日本チェルノブイリ連帯基金( NPO 法人)は放射線を測るバッチ型の線量計を調達し、妊婦や子供たちに配布する計画を進めており、5月中にまず 50 個を南相馬市に配る予定と報じられたが、風評被害を防ぐ効果が期待される。原子力保安院では計画的避難区域内で一ヶ月程度生活しても健康への問題はないとしているが、被曝の低減のため、外出する時にはマスク、長袖を着る、徒 歩より自動車の利用がすすめられ 、 食品は摂取制限がなければ問題ないと結論づけている。