2011.5月号より

『 大震災後のヘルスケア 』

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


東日本大震災の爪痕

 去る3月 11 日に発生した東日本大震災はほぼ一ケ月を経た現在死者一万 2915 人、行方不明一万 4921 人に達している。福島県では死者 1241 人、不明者は 3488 人にのぼり、更に今後増えるとみられる。福島第一原発事故の影響を含め、北海道から静岡県まで 18 都道府県に設置された避難所は約 2300 カ所、約 15 万 3000 人が避難生活を送っている。政府は原発事故拡大に備え避難計画を見直す方針とかで、更に避難生活を余儀なくされる人が増える可能性も憂慮される。

 避難所での医療確保

 阪神・淡路大震災は平成7年1月 17 日に兵庫県の南部地方を襲った。この大地震によって 6400 人余の人命が失われた。当時兵庫県知事の貝原俊民氏は避難所での医療に関して「ひとりとして避難者を死亡 させてはならぬ 」 と厳命を発した 。 当事兵庫県保健環境部次長兼医務課長の任にあった後藤武氏(後述)はその意を体し「平時でも何人かの県民は亡くなられていたのだから、避難所でも死者は必ず出る。しかしどんな事があっても医師に看取られずに亡くなる方が出ないよう最大限の努力をいたします。」と延べ、悪戦苦闘が始まった。結果からして臨終に際して医師に手を握ってもらえず死亡された方 はいなかったはずだと述べている 。

避難者が約 16 万人とすると 、 平時の死亡統計から、毎日少なくとも 3名は死亡する事になる 。 しかし 、 避難所の厳しい生活条件や高齢者の事も考慮すると、全避難所での死者はこの推定を上回る可能性がある。

 情報と人手不足、当然あるべき医薬品、医療材料が手に入らないなど通常では考えられない状況と予想を超える仕事量の中では、危機管理全体を調整するシステム作りと強いリーダーシップが何より必要である。平常時からの備えが命運を分ける。

 @感染症対策

 東日本大震災の発生が3月上旬とはいえ朝晩は冷えた日も多かった。この季節の最大の感染症リスクはインフルエンザである。避難所での共同生活ではインフルエンザ予防のためにマスクの着用、手洗い又状況によってはワクチンを考慮する。その他にはノロウイルス、急性胃腸炎にも注意する必要がある。

 また避難生活の疲労、ストレスのもとでは結核に気をつけなければなら ない 。 現在治療中の人は勿論だが 、 異常な咳、喀痰、微熱等の症状のある人との接触は特に小児では留意しなければならない。また非常事態ではメンタルケアは重要である。

 A慢性疾患対策

 阪神・淡路大震災では検診を希望する者、医師が必要と認め患者の同意が得られた被災者全員に、血液・尿検査を行い、更に必要と認めた場合には心電図、胸部レントゲン撮影を行った。結果は当日または翌日には報告した。精密検査や治療を必要とする場合は医療機関に紹介した。費用は全て無料。避難者 460 名が収容されていた避難所では医療班が予め調査して、検診を受けるよう指示した 49 人中 41 人が受診、その結果2名が要入院、いずれも糖尿病の悪化であった。その他高度貧血、糖尿病、高血圧などであった。

 Bエコノミークラスシンドローム

 本誌4月号に掲載したので詳細は省く。足の静脈血栓から肺塞栓症を発症、生死を分けることもある。検査は専門技術を要 するが超音波装置で容易にわかる 。

  本文は阪神・淡路大震災において献身的な奉仕をされた後藤武医師の著書から引用させて戴いた。後藤先生は筆者と同じく心臓血管外科医を目指し、アメリカでケイ教授のもとで学んだJJ会の同僚メンバーである。