2011.4月号より

『 大震災の健康リスク 』

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


去る3月 11 日に発生した東日本大地震はマグニチュード 9.0 、続いて 20 mを超える巨大津波は東北地方太平洋 沿岸に未曾有の被害をもたらし 、 更に福島第一原子力発電所で放射能漏れが起った。このトリプルパンチは住民の生活に甚大な影響を与え、多 くの人達が避難を余儀なくされた 。

 避難の移動リスク

 福島第一原発から半径 20 キロ圏内にある双葉病院では患者移動に際して 21 人が死亡したと報道され、また小名浜の介護老人保健施設では千葉県鴨川市の施設へ向った 122 人がバスで移動中に 95 歳、 80 歳の2人が亡くなった。高齢者にとっては長時間にわたるバスでの避難はかなり重い身体的負担となった。車内の状況は不明であるが、亡くなられた方の中にはエコノミークラス・シンドロームによる死亡もあったものと推定される。 2007 年の中越沖地震(マグニチュード 6.8 )は未だ記憶に残っているが当時新潟大学医学部棒沢和彦医師は 43 〜 79 歳の 10 人がエコノミークラス

・シンドロームで亡くなった報告を行った。エコノミークラス・シンドロームとは足の静脈の中に血のかたまり(血栓)が生じ、だんだん大きくなり足を動かした時や歩きはじめに血栓が剥がれて、肺まで飛んで肺動脈を塞いでしまう病気である。重症例は死に至る。狭い車内で、特に座席に深く腰をかけ、座イスの端で膝の裏側を圧迫する姿勢は膝裏を走行する静脈を圧迫し、血液の流れが淀み血栓が生じやすい。エコノミークラス・シンドロームは元々航空機で長時間エコノミークラスの狭い座席に座ったままの乗客に多発した事からこのシンドロームの名称になった。足の静脈が太く蛇行する静脈瘤のある人では、血流が淀むので尚一層リスクは高まる。

 移動中のリスクを防止するためには1〜2時間毎に休憩をとり身体を伸ばしたり、足の屈伸運動を行うこと、またあまり動けない人や静脈瘤のある人では両足に弾性ストッキングを履くことが予防となる。また充分に水分を補給し、脱水症にはならないよう注意することが大切。

 避難所でのリスク

 現在 避難所は約 1900 箇所 、 避難者は 24 万人にのぼっている。避難先の施設 において岩手県1人 、 宮城県 24 人 、 福島県 27 人計 52 人の死亡があったとする報道がなされた。避難生活の厳しさを象徴している。

 棒沢医師は宮城県の3ヶ所で避難者 39 名について検査を行い、エコノミークラス・シンドロームの原因となる血栓を 11 人( 28 %)に診断。避難生活においても少なからず リスクを背負っているのがわかる 。 またインフルエンザ、ノロウィルスなど感染症のリスクも少なくない。状況によってはマスク・石鹸での手洗いは重要である。

1995 年阪神淡路大震災(マグニチュード 7.2 )では犠牲者 6436 人の被害をもたらした。大地震直後心筋梗塞発症は普段の 3.5 倍多く、特に女性に多くみられている。血圧は大地震後2週間経過した後でも約 20 mmHg 高くなり、脈搏も増加していた。大震災では身体的ストレスに加えて精神的なストレスが極限まで達していることからも、メンタルケアを含めてあらゆるサポートが必要である。

 放射能汚染

  食品や飲料水への放射能汚染の影響が広がっている。福島県産の原乳や野菜類は出荷停止となり、食べないよう指示が出されている。直ちに健 康被害はないが念のため飲んだり 、 食べたりしないでとする指示では混乱してしまう。飲料水についても然りである。もっとはっきりした、統一した情報が望まれる。情報が錯綜する中、冷静な判断と行動でこの危機を乗りこえたい。