2010.3月号より

『 再生医療 』

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


 人の皮膚から万能細胞

2007 年 11 月 21 日の朝刊各紙は「人工万 能細胞 」 についての見出しを並べ 、 テレビ局も特集番組を放映した。この日の人工万能細胞の報道以後数日のうちにローマ法王庁やブッシュ大統領までがこのノーベル賞クラスの業蹟に対して讃辞を送ったことが報道された。人工万能細胞は再生医療への超ビッグな前進である。

 トカゲの尻尾切り

 草むらから出て来たトカゲを捕まえようとすると尻尾を切り離して逃げていく。一ヵ月後には尻尾が生えてくる。これが再生というイメージと結びつく自然現象である。更にイモリは上手で、4本の足も切断されても3ヶ月もすれば骨まで完全に再生する。目や心臓なども再生するといわれている。

 人工多能性幹細胞

 これが話題の i PS細胞と呼ばれるものである。京都大学再生医科学研究所・山中伸?教授が発表したものである。多能性とは人間の体を搆生するいろんな性質を持ったあらゆる細胞になることができるという意味である。「I」を小文字の「 i 」にしたのは i POD(携帯型デジタル音楽プレイヤー ) のように瞬く間に広まることを夢みた山中教授のユーモアのようである。

 ES細胞は胚から始まる

 ES細胞という名前は胚と幹細胞という二つの頭文字をとったものである。つまり胚性幹細胞と呼ばれる万能細胞である。「胚」は動物だけでなく植物にも使われる。胚芽米はコメの表皮などを取り除いて芽が出る部分を残したコメのことである。動物の「胚」でも同じように卵や母親の胎内から生まれる前、まだそれひとりでは生きていくことが出来ない状態である。胎児あるいは胎仔とは人間のような哺乳動物に使われる言葉であり、胚より更に成長した存在を表している。人の場合、受精後 14 日目位までが「胚」と呼ばれる。ヒトES細胞というのは受精卵となって 14 日目までのものから得られる細胞のことである。

 万能細胞の倫理

 ヒトも含め動物の体は受精卵の遺伝 子から様々な細胞に分化し 、 組織 ・ 臓器を作っていく。この万能性を持つ細胞を使って臓器細胞や神経細胞を作っていくのが「再生医療」の狙いである。ヒトではES細胞はこれから成長する生命のある受精卵を使用するという意味で倫理的な問題を抱えている。一方 i PS細胞は成長した皮膚細胞を培養し、遺伝子を加えることで万能細胞のような i PS細胞を作り出したものである。本人の皮膚などの細胞に遺伝子を導入して i PS細胞を作り出す。特定の細胞へ分化を誘導して臓器を作れば拒絶反応のない自分自身の細胞由来の臓器移植が可能となる訳である。

 再生医療の夢

 自分の細胞を材料にして心臓や肝臓などのからだの臓器の細胞を作り出 せれば究極の再生医療につながる 。 心筋梗塞になったら新しい心筋細胞を作ってやればよいし、お酒を飲みすぎて肝硬変になったり、C型肝炎になったら新しい自分の肝臓を作ってやればよい。また事故や怪我で手足を失ったら、また自分の細胞から作 ってやればよい 。 がんを患ったら 、 全部切除して新しい胃や腸だって作れる。脳だって再生可能となる。このようなことが実現したらヒトという生物が自然界の摂理に反しないものだろうか。しかし現在のレベルはヒト の臓器の再生までに至っていない 。 宇宙がビックバンから始まったと同じようにヒトも受精卵から始まる。ヒトという生命体の起源も未知の宇宙の彼方のように一番身近ではあるが、果てしない宇宙の神秘と同じように思えてくる。