2008.9月号より

『 大地震の健康被害 』

社会医療法人福島厚生会
理事長  星野 俊一


平成7年阪神淡路大地震M 7.2 で6千名を越える犠牲者がでたが、以後新潟中越地震M 6.8 、新潟県中越沖地震M 6.6 、今年岩手・宮城内陸地震M 7.2 、海外では6万9千人の人命を奪った四川大地震M 8.0 などと連続して起っている。多くの人命と物的被害が報道される中、被災地の住民には重大な健康被害も発生している。

 地震後には心臓の突然死が増える

 阪神淡路大震災の際に急性心筋梗塞は著しく増加し、過去3年の同時期の患者発生数の約3倍に達している。男女差はないが、60歳以上の高齢者に多い傾向である。近隣の医師会の死因調査でも地震後に突然死を含めた高齢者の心臓死が増加している。特に心臓死は人的物的被害の大 きかった町に顕著であった。31% の家屋が倒壊滅し、34%の住民が避難所での生活を余儀なくされたある町では心臓死は2倍に増加し、特に夜間に発生しているのが目立つ。

 震災時のストレスが原因

 1994年米国カリフォルニアのノースリッヂ地震でも地震による強いストレスが引金となって心筋梗塞が増えたと報告されている。一般的に女性は男性に比較してストレスに対する感受性が強いとする科学的データーがあるが、地震ストレスは高齢女性を直撃している。勿論地震ストレスに加えて避難所での生活や余震による恐怖のため十分な睡眠がとれない等の結果が禍している。

 震災時のストレスで血圧が上がる

 普段高血圧の薬を飲んでいる人では、震災前後の血圧を比較すると震災前平均152(142〜164)が後には170(160〜178)と有意に高くなっていた。血圧の上昇は一過性で4〜6週間後には震災前に復帰している。

 震災時の車中泊は危険

 新潟中越地震では家屋の半壊は10万戸を超え、一時避難者は最大30万人に達した。また大きな余震が非常に多く、停電やガスの停止が起り明かりや暖を取るために地震直後では約半数の人が車中に避難したと推定されている。地震一週間後でも被災地では3万人近くが車中泊避難をしていると報じられている。このような状態の中で車中泊をしていた人 々の体調異常で突然死が多発した。

 車中泊はエコノミークラス症候群を惹き起す

 新潟県の発表によれば新潟中越地震によるエコノミークラス症候群は 11 名で、そのうち4名が死亡。これ以外にも診療所・病院でエコノミークラス症候群が疑われた被災者・死亡例もあるというが詳細はわかっていない。また被災地を警備していた警察官が 24 時間パトロール勤務をくり返した事による発症例もあり、2次災害として発症した可能性が高いと推定されている。わかっている範囲内でも新潟中越地震によるエコノミークラスの死亡率は 36.4 %であり、病院での死亡率約 20 %に比べて高いことから重症のエコノミークラス症候群が起きていたと考えられる。

 その原因は?

 車中泊は2〜6日、車中泊に使用した車は軽自動車、ワゴン車の運転席等である。共通する原因としては

@窮屈な姿勢、特に足を曲げている姿勢を長時間続けたために足に血液のうっ滞が起る。

 A地震や余震の恐怖によるストレスのため血液凝固能が高まった。加えて48時間は食料や飲料水が供給されず、またトイレの問題から飲水を自ら制限したため脱水状態も原因となっている。

 B車中泊は海外旅行などと同様に足の静脈がうっ滞し、過度に拡張し続けると血が固まり易くなる。このため肺の血管に血液の凝固した塊りがつまってくるエコノミークラスには用心が必要とされる。